【10Xマーケターその②】マーケティング基盤は、AIエージェントによってどう変わるのか

本記事は「10Xマーケター」シリーズ(全3回)の第2回です。
第1回では、「マーケティングを次に大きく前進させるのは"新しいツール"ではなく"AIエージェント"だ」というお話をしました。これまで自動化が進まなかったのはツール不足が理由ではなく、① 企業ごとにブランドや顧客、最適な打ち手が大きく異なる、② 使うツールが分断して情報がサイロ化する、③ 関係者・承認プロセスが多い ── という3つの壁があるためです。足りないのは、"この会社の文脈を理解し、バラバラな業務をつなぐ存在"=AIエージェントであり、これによってマーケターは「実行」から「戦略づくり・指揮」へと役割を移し、「10x Marketer(10倍の成果を出すマーケター)」へと進化する、という内容でした。
▶ 第1回:10倍の成果を出すマーケターの鍵、AIエージェント
マーケティング基盤はどう進化してきたか
2000年代:チャネルの拡大
メール、検索広告、ディスプレイ広告などにより、従来よりはるかに低いコストで数百万人にリーチできるようになりました。SalesforceやAdobeなどの大手プラットフォームも、この時代に成長しました。
2010年代:データとモバイルの時代
CDP、マーケティングクラウド、行動分析ツールの普及により、企業は顧客をより深く理解し、細かなセグメントに分けて施策を実行できるようになりました。また、データウェアハウスの発展により、各ツールが個別に顧客データを保有するのではなく、企業が管理する一つの場所にデータを集約する流れが進みました。
2020年代:必要なツールを組み合わせる時代(コンポーザブル)
データウェアハウスにデータを集約したうえで、用途ごとに最適なツールを"部品"のように組み合わせる構成が主流になりました。すべてを一つの巨大な製品で管理する必要がなくなったのです(この"組み合わせ型"の考え方を「コンポーザブル」と呼びます)。
現在、多くの企業のマーケティング基盤は、大きく次の2層で構成されています。

情報を管理するシステム
- データウェアハウス/データレイク:顧客データの保存
- CDP:顧客セグメントの作成
- CMS/DAM:コンテンツや素材の管理
施策を実行するシステム
- 広告プラットフォーム
- MA・顧客エンゲージメントツール
- Web・アプリ向けのA/Bテストツール
これまでマーケティング基盤は、下層の「情報を管理するシステム」と、上層の「施策を実行するシステム」という2つの方向に進化してきました。AIは今、この両方を同時に変えようとしています。
AIによって起きる3つの変化
1. データ基盤が「意思決定」まで担うようになる
固定ルールや人手で作ったセグメントに頼る従来のやり方と違い、AIは予測・提案・改善を継続的に繰り返します。そのため、顧客一人ひとりに、より適した体験を提供できます。ただし、その精度はAIに渡される情報に左右されます。そのため企業は、複数のツールに散らばったデータや知識を、一つの場所に集約しようとしています。
Databricksなどのデータ基盤企業も、単にデータを保存するだけでなく、次のところまで役割を広げようとしています。

- ビジネスの状況を理解する
- アプリケーションに知見を提供する
- 何が、なぜ起きたのかを記録する
- 次に何をすべきかを判断する
一方、従来型CDPの位置づけは変わる可能性があります。AIが一人ひとりに対して「誰に何を届けるか」を直接判断するなら、人が事前に顧客をグループ分けする専用ツールの必要性は低くなるためです。CDPの機能自体は残りますが、独立した製品として存在し続けるとは限りません。
2. AIエージェントが施策の実行方法を変える
現在の多くのマーケティングツールは、人がすでに決めた施策を実行するためのものです。人が戦略を考え、対象者を選び、コンテンツを作り、配信を設定することが前提になっています。AIエージェントは、この部分を大きく変えます。
例えば、しばらく利用していない通信サービスの顧客に、再利用を促す場合を考えます。これまでは、マーケターが対象者・メッセージ・配信タイミングなどを決めていました。AIエージェントを使うと、次のようになります。

- 顧客の利用低下を検知し、システムが自ら施策を提案する
- 「離反リスク層」のような大きなセグメントではなく、その人に最適な内容をリアルタイムで判断する
- 過去の反応から、割引よりも新機能の紹介が効果的だと判断する
- マーケターは、利益率・ブランドルール・配信頻度などの目標と制約を設定する
- システムがその範囲内で施策を実行し、何が有効だったかを報告する
つまり、マーケターの仕事は、一つひとつの作業を管理することから、AIが動くための目標やルールを設計することへ変わります。
3. 「賢い判断」と「実際の業務」を同時に変える必要がある
AIの判断精度が非常に高くても、マーケターが使いにくければ社内には定着しません。反対に、操作画面が使いやすくても、企業のデータや背景を理解できなければ、他社と差がつく成果は生まれません。そのため今後は、次の2つが一体化していくと考えられます。
- 企業の状況やデータを理解して判断する機能
- マーケターの業務を実際に進める機能
AIエージェントが手作業を担うようになるほど、「どのツールからメールを送るか」といった実行手段の重要性は下がります。それよりも、次が重要になります。
- 施策を10倍速く作れるか
- 顧客一人ひとりに10倍精緻にリーチできるか
- 10倍質の高い顧客体験を届けられるか
企業に必要となる3つの能力
マーケティングや顧客エンゲージメントを本質的に変えるには、次の3つが必要です。
1. 組織全体を理解する「頭脳」
新たな独立ツールを追加するのではなく、既存のデータや業務情報すべてにつながるAIが必要です。キャンペーン履歴・ブランドガイドライン・顧客行動・過去の実績などを理解し、施策を実施するたびに学習していく存在です。
2. 顧客一人ひとりに最適化する能力
顧客を大きなセグメントに分類するのではなく、一人ひとりを個別に理解して体験を設計します。イメージとしては、すべての顧客に専属のマーケティング会社とデータサイエンティストを付けるようなものです。
3. 実務を引き受ける仕組み
正しい施策が分かっても、チームが手作業で制作・設定・配信・検証を行わなければならないなら、負担は十分に減りません。分析や提案だけでなく、実際の施策実行まで担当できる仕組みが必要です。
企業が選べる3つの方法
1. 既存の大手プラットフォームに任せる
既存の大手企業も、AIやエージェント機能への投資を進めています。ただし、長年使われてきたシステムとの互換性を維持しながら再構築する必要があるため、大きな変革には時間がかかる可能性があります。
2. 自社で構築する
自社開発は、柔軟性とコントロールを最大化できる方法です。十分なエンジニアリング人材と予算があれば有力な選択肢です。一方で、完成まで1年かかったり、優秀なエンジニアを継続的な保守に割かなければならなかったりします。短期間で成果を求められる企業にとっては難しい選択でもあります。
3. AIネイティブな企業と組む
最初から機械学習とAIエージェントを前提に設計された企業であれば、既存のマーケティング基盤と接続し、比較的早く価値を提供できます。また、知能・意思決定のレイヤーを維持したまま、既存の配信ツールを段階的に置き換えたり、より低コストなツールに変更したりできます。
本記事の要点
これからのマーケティング基盤で重要なのは、ツールを増やすことではなく、企業の情報を理解し、顧客一人ひとりに対して判断し、その判断を実際の施策として実行できるAIエージェントを持つことです。マーケターは細かな作業を自分で行う役割から、目標や制約を定め、AIエージェント全体を指揮する役割へ変わっていきます。
第3弾(最終回)では、ここで述べた"AIエージェント"を実際のプロダクトとして形にした Auxia Agent Studio をご紹介しています。あわせてご覧ください。
▶ 最終回:スーパーマーケターの時代へ:Auxia Agent Studio のご紹介
https://www.auxia.io/ja/blog/the-age-of-the-supermarketer-introducing-auxia-agent-studio
原文:The CMO's Guide to the Changing Marketing Stack(著者:Sandeep Menon/auxia.io/blog)



